理想SEPPを探そう!
しかしここで一たびマッチングトランスの採用を考慮すると状況はがらりと変わります。まず最適負荷が選べるため、歪が減り、電源の使用効率が上がり、DFが上昇します。ではそのようなマッチングトランスはどうするのかについて、2つの選択肢を考えます。1つ目は自作や特注(※)。そして2つ目は普通のPP用OPTのB-P間を使えばよいのです。

こう書くと、それなら普通のPPにすればいいじゃないかと思われるかもしれませんが、ある重要な部分に違いがあり、SEPPはそれをクリアできる機能があるのです。

普通のPP回路では、真空管のある1次側と、スピーカーがつながる2次側と言う判断でOPTを見ることになっていて、1次‐2次間に起こる位相特性や、周波数特性や磁化特性による歪がウンヌンされています。

しかし良く見ると、B端子を中点とするP1端子とP2端子は明らかに別の巻き線で、P1-Bから見ればP2-Bはすでに2次側なのです。この影響から逃れるにはC級動作が理想ですが、相当なクロスオーバー歪が発生します。





その点、B級専用の6N7PPなどは、ドライブトランスに恵まれると以外に良い音になります。トランスの例としては、かつて放送局などで前置アンプ送り出し用に使われていたOPT(タムラ製17KΩ:600Ωct及びNF巻き線付き)などですが、今となっては入手困難です。

そこで通常われわれは、その部分を見なかった事にして、PPが立派に成立しているのだと自分に言い聞かせ、AB級で自称HiFiアンプを作っているわけです。





ちなみに完全A級ならばかなり影響を減らせますが、出力は2倍で、P1‐B間のインピーダンスもそのままになるため、例えば2A3のPPなら、3,5KΩの4倍つまりP1-P2間17KΩのOPTが必要になります。

ただしPP用OPTはインダクタンスが大きいので、8KΩ型OPTの2次側の調節で流用しても、パラシングルなどよりは遥かに良い結果になるでしょう。





一方SEPPならば、文字通り1次と2次しか(低めの負荷なら1次のみ)コイルがありませんから、PP用OPTの持つ大きな問題が1つ消滅し、シングルアンプの長所を持っただけでなく、お望みならオーバーオールのNFBもトランスの1次側からかけられるため、OTL並に安定度が上がります。

ではなぜこうしたSEPPが、今まで省みられなかったのでしょうか。その最大の原因がSEPP特有の非対称ドライブにあるのは明白で、逆にOTLというメリットがあればこそ多くの人がそこを目指し、非対称の北壁を乗り越えて様々なドライブ回路に到達したのだと思います。

そのためか、OTL回路を眺めてみると、フッターマンのようにPK分割回路の場合は当たり前ですが、テク二クスのように2個の真空管を使った場合でも、必ずカソードなどで正相側と逆相側が結合され、巧みな設計の、独立したドライバー段が主張していることに気付きます。

つまり「確かにSEPPは既存の技術だが、このドライバーに関しては私のオリジナルだよ。分かってるだろうね?」という思いが回路を縦割り設計にさせ、逆に非対称ドライブを曖昧、もしくは不可解なものにしていると感じました。


          


この点OPT付アンプは明快そのもののため、製作意欲にためらいを感じさせません。そこで今回は上なら上、下なら下の出力管とドライバーで1つの素子という、いわゆる横割りの回路設計にすることで明快なドライバーを目指しました。この構成はトランジスタアンプの準コンプリメンタリに少し似ている気がします。


※マッチングトランスのもう1つの選択肢は特注あるいは自作ですが、自作の場合これほど労少なくして益多いトランスはないのでは無いかと思うくらい、実に単純なものです。

まず直流は流れませんし、インピーダンスが低いので巻き数も少なく、その分f特も優秀で、オートトランスのため複雑な部分がありません。また1:4に巻くだけで8Ω:128Ωと手ごろな値が手に入ります。そして10Hzで128Ωのインピーダンスをを保つには2H(ギャップ無し)でよいことが分ります。



つづく



その2
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